この世の中には、毎日が楽しめない、元気がでない、辛い、苦しい、先行きの希望が持てない、不幸せでいっそのこと死んでしまいたいという人たちが決して少なくありません。そんな重荷が軽くなって、毎日を自分らしく生き生きと暮らすことができたら、どんなに幸せなことでしょう。

どうして私たちは心苦しむのか、どうすれば心の苦しみは癒されるのか、どうすれば自分らしく生き生きと幸せな日々を過ごせるようになるのか。私自身も心の苦しみを抱えてきた一人として、その答えをずっと探し求めながらカウンセリングや心理療法を学び、心理支援の専門家としてさまざまな困難を抱える方々とお会いしてきました。

以来、長い年月をかけて、どうしたら私たちの苦しみが癒されるのか、どうしたら幸せに近づけるのかの知恵や方法をいろいろ集めてきました。至らぬ我が身ゆえ、まだまだ不充分なのは承知の上ですが、それでも、皆さんとそのヒントを共有することで、皆さんが苦悩から少しでも癒され、幸せな日々を取り戻すのに、少しでもお役に立つことがあるかもしれません。

もちろん、そこにはさまざまなカウンセリングの考え方が支えになっています。カウンセリングや心理療法の理論は、私たちはどうして心苦しみ、どうしたらそれが解消されるのかを踏まえて考え出されたものです。だから、もし「適切に」活用されれば、私たちのためにおおいに力を貸してくれます。

今や、わが国でも従来の臨床心理士に加え、公認心理師という国家資格ができ、全国のほとんどの学校ではスクールカウンセラーが日々、子どもたちやその家族、ときに教職員の方々のメンタルヘルス・ケアに日々、活躍しています。また、病院や福祉関係の機関、民間の企業などにも心理カウンセリングの専門職が配置されるようになってきています。  

ですから、皆さんの中には、カウンセリングを受ければ、あるいは、その考え方を学べば、きっと苦しみが癒され、幸せになれると思っている人も少なくないことでしょう。

最近は「癒し」ブームのようなところもあり、幸せになるため、ストレスの少ない自分らしい毎日を過ごすための自己啓発書がベストセラーになったり、関連するセミナーや講演会が盛況だったりします。それらは、意識されているかどうかは別として、カウンセリングや心理療法の知見が取り入れられているものがほとんどです。

でも、ここで注意したほうがいいことがあります。カウンセリングや心理学の知見は、決して万能ではありません。カウンセリングの種類や方法は千差万別で、その目指す「幸せ(回復)のイメージ」やそのための「(癒しの)方法」はそれぞれに異なっています。

ですので、その違いによって、同じ人の同じ悩みに対しても、まったく逆のアドバイスになることも少なくないのです。例えば、心の中を深く内省してみることを大事にする立場もあれば、逆に、繰り返しの内省を、私たちを幸せから遠ざけるものとしてあまり良しとしない立場もあります。

また例えば、過去の傷つき体験を「トラウマ」と銘打ってその悪影響を重く見る立場もありますし、「トラウマ」を想定しなかったり、重視しない立場もあります。もし、前者に沿って、「トラウマ」があると逆に幸せに生きられないとか、それが癒されるまでには長い年月がかかるという思いを強くしてしまったりすると、逆に、日々のさりげない幸せに目を向けることなく、一生を終えてしまうことになったりするかもしれません。逆に、「トラウマ」とか、それに似たような心の傷を想定しない場合、わけもなく不安に駆られたり、ささいなことにひどく落ち込んでしまったりする今の自分のありようが、なかなか理解できないこともあります。

要は、どれが正しいとか、どれが誤りかとかとういことではなく、今の自分に少しでも合ったものを見つける必要があるということです。今のあなたを助けてくれ、支えてくれるような考え方もあれば、今のあなたを幸せから遠ざけてしまうような考え方もやはりあるのです。

専門家の助けが不可欠とされているものもあれば、一人でもできるようなスキルや方法もあります。さらには、ある考え方と別の考え方を組み合わせたり、いいところどりをすることで、さらに皆さんに役に立つものになったりする場合もあります。

また、たとえ、ある考え方や方法を通じて、良くなったとか、悟りが開けたとか感じたり、実際にそれに近い体験を持てたとしても、それがその後もずっと効果的であるかというと、そうでもないことが普通です。私たちは、同じところを行きつもどりつしているわけではなく、常に歩みを進めています。だから、一度うまくいったからといって、その理論や考え方にこだわることで、私たちの人生をかえって不自由にしてしまうこともあるのです。つまり、人生のその時々で、自分に合う考え方を見つけていくことが大切だということです。

ですので、ここでは、代表的ないつくかのカウンセリング理論のそれぞれが持つ前提としての考え方と、それらがどんなタイプの人や悩みに役に立ちやすいのかということを、私なりの視点から整理してみたいと思います。それぞれの理論は、心の苦しみがどうして生じ、それがどうすれば癒されるかという、いわば私たちが幸せになるためのイメージや道筋のモデルを各様に持っているのです。→カウンセリングはどう役に立つのか

このホームページが、皆さんがご自身や大切な人の心の苦しみに、少しでも役立つような考え方や方法を見つけてゆくためのヒントになればとても嬉しいです。また、既に専門家カウンセラーの支援を受けている方、あるいは、受けようと考えている方にとって、そのカウンセラーがどんな考え方、幸せのイメージを前提として支援をしようとしているのか、それが、自分に合っているのか、そうでもないのかを、大まかにでも判断する参考になるのではないかと思います。また、カウンセリングに違和感や不信感を持っている人にも、是非、読んでいただきたいです。

さらには、現実として、専門的な知識やカウンセリングだけでは深い心の苦しみは十分には晴れません。カウンセリングの考え方と、すでに皆さんに馴染みのある日常的な知恵や心がけを、毎日の生活のなかに組み込んで、習慣化してゆくことが、私たちが苦しみをのり越えて幸せに生きていくための大きなかんどころです。そうして、自分にとって本当に役立つ営みや、かけがえのない自分のならではの幸せのありようがきっと見えてくるでしょう。

「皆さんのこころの苦しみが和らぎ、静かな幸せとともに日々を過ごせますよう」

 藤田 博康

藤田博康

ふじたひろやす

駒澤大学文学部心理学科/駒澤大学大学院人文科学研究科心理学専攻 教授
公認心理師・臨床心理士・家族心理士
京都大学教育学部教育心理学科卒業 
筑波大学大学院教育学研究科カウンセリング専攻修了 カウンセリング修士(筑波大学)
教育学博士(京都大学)

家庭裁判所調査官/公立学校スクールカウンセラー/IPI統合的心理療法研究所研究員/帝塚山学院大学大学院人間科学研究科教授/山梨大学大学院教育学研究科教授等を経て、現職。

著書

その他著書、論文等多数

幸せに生きるためのカウンセリングの知恵: 親子の苦しみ、家族の癒し 藤田博康 (著)

幸せに生きるためのカウンセリングの知恵
親子の苦しみ、家族の癒し

藤田博康 (著)

金子書房 四六判216頁 2,530円 2020年10月刊
金子書房ホームページで見る

書評

伊敷病院 神田橋 條治

毎日、山ほどの本が出版されています。一人の著者によって書かれたものは10分の1ぐらいでしょう。しかも多くは著者の頭に蓄積された知識や考えを文字で伝えるもので、読者を豊かにする字文化です。
「思いを語った」ものは、うんと少なく、100分の1くらいでしょう。さらにその10分の1ぐらいが「対話を求めての語りかけ」でしょう。そしてそのまた10分の1が「受け手を幸せにしよう」と願っての語りかけですが、受け手への「愛」一途の語りかけで、しかも宗教臭の無いものは、さらに10分の1でしょう。そうした超レア物の書籍がここにあります。

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藤田先生は大学の教授で、沢山の後進を育てておられ、研究論文もいっぱいありますが、現場の援助者として出発しそれをご自分の本分と心得ておられるようです。人生の実りの時期に至って初心に立ち返り、もがき苦しんでいる子どもたちへ「語りかける」ことに踏み出されたようです。「道を求めて生きた」人の集大成が「初志に戻る」であることを連想させます。

多くの人にぜひ読んでほしい。それぞれの心の中に棲む「傷ついた子ども」を自らいたわる好機としてほしいと願い、書評を申し出ました。ボクのお勧めの読み方をお話しします。手に取ってまず、末尾の「あとがきに代えて」を読んでください。この本の語りかけに込められている藤田先生の思いが伝わり、受け手としての姿勢が定まります。「はじめに」は原稿ができ上がって冷静になって書かれた、本質としては「あとがき」です。何より大切なのは、決して目次を読まないことです。この本の目次は、出版物としての常識への妥協であり、後々「索引」として有用ではあります。

本文を読み進むと、ほどなく、ボクの内側に涙のような雰囲気が流れる感触があります。そしてこれは、語っている藤田先生の内側に流れている涙であり先生の前にいる子どもたちの内側に流れている悲しみであると実感されます。脇に置かれていた感性が蘇った「若返った」気分が生じます。先生の語りかけが生み出すのは「体験」です。言葉にすると興ざめですが、「いのちへの共感」と呼ぶのが近いでしょうか。

先生は心理療法のいろいろな考えを「良いとこ取り」的に紹介されますがそれはヒントにすぎません。ボクの理解するところでは、先生は「いのち」の本性に依拠しておられるようです。アメーバの時代から「いのち」はその時々の精一杯の工夫で「幸せ」を希求しています。ヒトの子どももその時々を自分なりに可能な精一杯の工夫をして生きています。常に前向きです。外見がいかに奇妙に見えても、すべて前向きな工夫なのです。「引きこもり」だってそうです。幼いいのちの懸命のエ夫に共感する姿勢が先生に「千変万化」の瞬間援助法を発想させます。「愛と悲しみと真剣」を込めた語りかけにより、あなたの内に眠っていた「いのち」が生き返ります。

出典「精神療法47‐6(2021)」

研修・講演歴等

心理カウンセリング関連学会・関連団体、内閣府、裁判所、法務省、各地方公共団体教育委員会、弁護士会等における、公認心理師、臨床心理士、医師、弁護士、看護師、保育士等の専門家対象の心理支援・カウンセリング、心理療法に関する研修講師多数。

その他、臨床心理士養成大学院、公認心理師、臨床心理士、家族心理士等の専門家に対する心理臨床スーパービジョンや心理カウンセリング事例研究会講師など多数。

講演・専門家向けスーパービジョン・事例研究会講師等のご依頼は、お問い合わせフォームよりご連絡をお願いいたします。

寄稿記事

自分で自分の気持ちを救う #もやもやする気持ちへの処方箋

https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/ndf852f9ac3b6

孤独の光明 #孤独の理解

https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/n17a8cb2df57a

「多方向への肩入れ」の心理学〜家族の苦しみと回復(5回連載)

https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/na3de0151cbdf
https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/nb60b794546b9
https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/n740e35a4bb4c
https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/nfa18fd36e3cd
https://www.note.kanekoshobo.co.jp/n/n2c3390dd5830

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